スパークリングワインの造り方とは、一度できあがったワインの中でもう一度発酵(二次発酵)を起こし、そのとき生まれる炭酸ガスを閉じ込めて泡にする工程のことです。 この二次発酵を「瓶の中」でやるか「タンクの中」でやるかで、味わいも、泡のきめ細かさも、価格までも大きく変わります。
私はイタリア出身で、東京でイタリアのスパークリングを輸入し、毎日のようにグラスに注いでいます。お客様から一番よく聞かれるのが「プロセッコとシャンパンは何が違うの?」という質問です。その答えのほとんどが、この"製法の違い"に詰まっています。この記事では、泡がどうやって生まれるのか、二つの代表的な製法、産地ごとのスタイル、そしてSwirlのセラーで実際に飲み比べられる一本までを、専門用語をかみ砕いてご紹介します。
よくある誤解:「スパークリング=シャンパンの造り方」ではない
いちばん多い誤解は、「泡のワインはみんなシャンパンと同じように造られている」という思い込みです。実際には、世界でいちばん飲まれているスパークリングであるプロセッコ、甘くて軽いアスティやモスカート・ダスティ、赤の微発泡ランブルスコなどは、シャンパンとはまったく違う造り方をしています。
もうひとつの誤解が、「瓶内二次発酵(シャンパンと同じ造り方)=高級で正しい、タンク方式=安い劣化版」という上下関係です。これも正しくありません。プロセッコをシャンパンの造り方で造ると、むしろ持ち味であるフレッシュな花と果実の香りが失われてしまいます。製法は優劣ではなく、そのぶどうと目指す味わいに合った"適材適所"なのです。私がよくお伝えするのは、「シャンパンはパンの香り、プロセッコは花の香り。どちらが上ではなく、役割が違うだけ」ということです。
そして甘口か辛口かは、製法とは別の話です。辛口のプロセッコもあれば甘口のアスティもあり、瓶内二次発酵のシャンパンにも極辛口から甘口まで存在します。甘さは最後の調整(ドサージュ)やぶどうの糖分で決まります。
泡はどうやって生まれるのか:二次発酵の基本
スパークリングワインづくりは、まず泡のない「ベースワイン(スティルワイン)」を造るところから始まります。そこに酵母と糖分(イタリア語でリクール・ド・ティラージュ、糖分と酵母を混ぜたもの)を加えると、酵母が糖を食べてアルコールと炭酸ガスを生み出します。これが二次発酵です。普通のワインづくりでは炭酸ガスは空気中に逃げていきますが、密閉した容器の中で二次発酵させると、ガスが逃げ場をなくしてワインに溶け込み、あの泡になります。
泡の量は「気圧(アトモスフィア、atm)」で表します。しっかり泡立つスプマンテ(英語でスパークリング)はおおむね3気圧以上、やわらかい微発泡のフリッツァンテは1〜2.5気圧ほどです。覚えておくと便利な言葉を、下にまとめておきます。
| 用語 | 意味(かみ砕くと) |
|---|---|
| 二次発酵 | できたワインにもう一度発酵を起こし、炭酸ガスを閉じ込める工程 |
| シュール・リー(滓との熟成) | 二次発酵を終えた澱(酵母の死骸)と一緒に寝かせること。パンやブリオッシュのような香りが生まれる |
| ドサージュ | 最後に加える糖分の量。ここで辛口〜甘口が決まる |
| 気圧(atm) | 泡の強さの単位。スプマンテは約3気圧以上、フリッツァンテは1〜2.5気圧 |
そして、この二次発酵を「どこで起こすか」が、スパークリングの個性を決める最大の分かれ道になります。大きく分けて二つ。瓶の中で起こす「瓶内二次発酵(メトド・クラッシコ)」と、大きなタンクの中で起こす「タンク方式(メトド・マルティノッティ)」です。上の図(記事トップ)が、その分かれ道をそのまま表しています。
瓶内二次発酵(メトド・クラッシコ)とは
瓶内二次発酵とは、出荷するその瓶の中で二次発酵を起こし、長い間、澱と一緒に熟成させる製法です。シャンパンと同じ造り方で、イタリアではメトド・クラッシコ(classic method、瓶内二次発酵)と呼ばれます。手順はこうです。ベースワインを瓶に詰め、糖分と酵母を加えて栓をする。瓶の中で二次発酵が進み、泡が生まれる。そのあと数か月から数年、澱と一緒に寝かせます(シュール・リー)。
瓶の中でできた澱は、最後に瓶口へ集めて凍らせ、圧力で抜き取ります(動瓶=ルミュアージュ、澱抜き=デゴルジュマン)。一本ずつ手がかかるぶんコストは高くなりますが、澱と長く接することで生まれる香ばしさときめ細かい泡は、この製法ならではです。じっくり育てた複雑さを楽しむタイプ、と覚えておくとよいでしょう。
タンク方式(マルティノッティ=シャルマ方式)とは
タンク方式とは、二次発酵を瓶ではなく、圧力に耐える大きなステンレスタンク(オートクレーブ)の中で一気に行い、圧力をかけたまま瓶詰めする製法です。プロセッコ、アスティ、モスカート・ダスティ、ランブルスコなど、フレッシュさが身上のスパークリングはこの造り方です。二次発酵は温度を管理したタンクの中で、数週間から1〜2か月ほど。澱と長く寝かせないぶん、ぶどう本来の花や果実の香りがそのまま瓶に収まります。
この方式には、知られざるイタリアの物語があります。考案したのは、1895年、ピエモンテ州アスティの王立醸造試験場の所長だったフェデリコ・マルティノッティ。彼がタンクの中で泡を造る画期的な方法を発明しました。その後、1907年ごろにフランスの技術者ウジェーヌ・シャルマがこの方式を工業的に使えるよう装置を改良し、特許を取得します。そのため海外では「シャルマ方式」と呼ばれがちですが、イタリアでは今も敬意を込めて「メトド・マルティノッティ」と呼び、プロセッコの規定書にもその名が記されています。つまり、あなたが気軽に開けるプロセッコの一本には、120年以上前のアスティの発明が生きているのです。
もうひとつの造り方:アンチェストラーレ方式(にごりの泡)
「二つの製法」と言いましたが、実はもっと古い、第三の造り方があります。アンチェストラーレ方式(古式=ancestral method)です。これは一次発酵の途中でまだ糖分が残っているうちに瓶詰めし、その発酵を瓶の中で完結させる造り方。二次発酵のために糖や酵母を足さない、いちばんシンプルで原始的なやり方です。近年「ペットナット(pét-nat)」の名で世界的に人気が再燃しています。
イタリア、とくにヴェネト州ヴァルドッビアーデネの丘では、この古式のプロセッコが「コル・フォンド(col fondo、澱とともに)」と呼ばれ、昔ながらの農家の食卓で今も愛されています。澱を抜かずに瓶詰めするので、うっすらにごった外観とドライで香ばしい味わいが特徴。地元の人が畑仕事の合間にグイッと飲む、素朴で日常的な泡です。きらびやかなシャンパンとは正反対の、土の匂いのする一杯で、日本ではまだほとんど見かけません。製法を知ると、こうした"例外"の面白さも見えてきます。
産地で変わるスタイル:フランチャコルタ、プロセッコ、アスティ
同じイタリアでも、産地によって使う製法もぶどうも、目指す味わいも違います。代表的な3つを並べてみましょう。
| 産地 | 製法 | 主なぶどう | 味わいの傾向 | 気圧の目安 |
|---|---|---|---|---|
| フランチャコルタ(ロンバルディア) | 瓶内二次発酵(メトド・クラッシコ) | シャルドネ、ピノ・ネロ、ピノ・ビアンコ | きめ細かくクリーミー、香ばしい複雑さ | 約5〜6気圧 |
| プロセッコ(ヴェネト) | タンク方式 | グレラ | りんご、洋梨、白い花、軽快で親しみやすい | 約3気圧(スプマンテ) |
| アスティ/モスカート・ダスティ(ピエモンテ) | タンク方式(一回だけの発酵) | モスカート・ビアンコ | マスカットの甘い香り、低アルコールで優しい甘さ | 約1〜2.5気圧(微発泡) |
ここで、日本ではほとんど知られていないイタリアの話をひとつ。フランチャコルタには「サテン(Satèn)」という、この産地だけが名乗れるスタイルがあります。生産者組合が商標として登録したもので、瓶の中の圧力をあえて約5気圧に抑え(通常のブリュットは5〜6気圧)、シャルドネやピノ・ビアンコといった白ぶどうだけで造ります。名前はイタリア語の seta(絹)に由来し、その名のとおり絹のようにやわらかく、クリーミーな泡立ちが身上です。圧力を"あえて弱める"ことで優しさを出すという発想は、強い泡をありがたがりがちな感覚からすると逆転の発想で、現地で飲むとその繊細さに驚かされます。フランチャコルタを訪ねたら、ぜひ探してみてほしい一杯です。
Swirlで飲めるスパークリング:製法別の一覧
Swirlのセラーには、タンク方式の軽やかな泡がそろっています。製法を知ったうえで飲み比べると、香りの違いがぐっとよくわかります。まずは一覧でご覧ください。
| ワイン | 製法 | タイプ | 甘辛 |
|---|---|---|---|
| プロセッコ・ミレジマート・ブリュット | タンク方式 | 白・スプマンテ | 辛口 |
| プロセッコ・ロゼ・ミレジマート | タンク方式 | ロゼ・スプマンテ | 辛口 |
| モスカート・ダスティ(リヴェット) | タンク方式(一回発酵) | 白・微発泡 | 甘口 |
| ドッピオ・パッソ・モスカート | タンク方式 | 白・微発泡 | 甘口寄り |
プロセッコは、グレラというぶどうをタンク方式で造った、まさに"花の香りの泡"の代表格です。私がふだんの乾杯にいちばんよくお出しするのが、このプロセッコ・ミレジマート・ブリュット。りんごと洋梨、白い花の香りで、すっきりとした辛口です。ロゼ好きには同じ造り手のプロセッコ・ロゼを。食後やデザートには、低アルコールで優しい甘さのモスカート・ダスティが寄り添います。
瓶内二次発酵のフランチャコルタやトレントDOC、シャンパーニュは、今のSwirlのセラーにはありませんが、香ばしい複雑さを楽しみたい日のために名前だけ覚えておいてください。タンク方式のフレッシュさとの違いが、きっと自分の好みを教えてくれます。
日本での楽しみ方:製法別の合わせ方と温度
製法がわかると、料理との合わせ方も見えてきます。フレッシュなタンク方式の泡は、揚げ物や前菜、繊細な和食と相性抜群。香ばしい瓶内二次発酵の泡は、より旨みの濃い料理やチーズに寄り添います。私がよくお出しする組み合わせを、表にまとめました。
| タイプ | 合う料理 | 提供温度 |
|---|---|---|
| プロセッコ(辛口スプマンテ) | 天ぷら(塩)、生ハム、フリット、餃子、唐揚げ | 6〜8℃ |
| プロセッコ・ロゼ | サーモン、生春巻き、トマト系の前菜 | 6〜8℃ |
| モスカート・ダスティ(甘口微発泡) | フルーツ、焼き菓子、少し辛い中華やエスニック | 5〜6℃ |
| 瓶内二次発酵(辛口) | 揚げたての魚介、鶏の照り焼き、熟成チーズ | 8〜10℃ |
日本の家庭でいちばん大事なのは温度です。泡はぬるいと香りがぼやけ、泡立ちも荒くなります。冷蔵庫でしっかり冷やし、飲む直前に出すのがコツ。甘口のモスカート・ダスティはさらに低めの5〜6℃で、キリッとさせると甘さがくどくなりません。グラスは、口のすぼまった細めのものだと香りと泡が長もちします。開け方のコツはスパークリングワインの開け方ガイドにまとめています。暑い季節の一杯には、スパークリングワインの選び方もあわせてどうぞ。
選び方:こんな人にはこの製法
製法から選ぶと、好みの一本に最短でたどり着けます。こんなふうに考えてみてください。
- 毎日の食卓に、軽やかで親しみやすい泡がほしい → タンク方式のプロセッコ
- 華やかな乾杯やお祝いに → プロセッコ・ロゼ、または飲み比べのパーティーセット
- お酒が強くない、甘い泡をデザートに → タンク方式のモスカート・ダスティ(低アルコール)
- パンのような香ばしさ、きめ細かい泡をじっくり → 瓶内二次発酵(フランチャコルタ、シャンパーニュ)
- 微発泡のやさしい口当たりが好き → フリッツァンテ。フリッツァンテとはもどうぞ
甘さで迷ったら、まずは辛口(ブリュット)から試すのがおすすめです。料理の幅がいちばん広く、乾杯から食事まで一本で通せます。
よくある質問
Q. プロセッコとシャンパンは何が違うのですか?
A. いちばんの違いは製法です。シャンパンは瓶内二次発酵で澱と長く熟成させ、パンのような香ばしさときめ細かい泡になります。プロセッコはタンク方式で、グレラというぶどうの花と果実の香りをフレッシュに表現します。産地もぶどうも違うので、別のタイプの飲み物と考えるのがおすすめです。
Q. タンク方式は瓶内二次発酵より品質が劣るのですか?
A. いいえ。優劣ではなく適材適所です。プロセッコやアスティのように香りのフレッシュさが命のぶどうは、タンク方式のほうがその魅力を引き出せます。瓶内二次発酵が向くのは、澱熟成の複雑さを楽しむタイプのスパークリングです。
Q. モスカート・ダスティのアルコールが低いのはなぜですか?
A. 発酵を途中で止めて、ぶどうの糖分を残したまま仕上げるからです。アルコールはおおむね5〜6%ほど。甘くて軽く、お酒が得意でない方や食後の一杯にも向いています。
Q. 「スプマンテ」と「フリッツァンテ」はどう違いますか?
A. 泡の強さの違いです。スプマンテはしっかり泡立つタイプ(約3気圧以上)、フリッツァンテはやさしい微発泡(約1〜2.5気圧)。栓の形も異なり、スプマンテは針金で留めたコルク、フリッツァンテは通常のコルクや王冠が多いです。
Q. よくある誤解は?
A. 「泡はみんなシャンパンと同じ造り方」という思い込みです。実際は、世界で最も飲まれているプロセッコをはじめ、多くのスパークリングがタンク方式で造られています。製法の違いを知ると、同じ"泡"でも香りや味わいがまるで違うことがわかります。
次に泡を開けるときは、ぜひラベルの産地と製法に目をやってみてください。グラスの中の物語が、少し豊かになるはずです。
参考:Decanter「Charmat method」解説、Gambero Rosso International「Everything you need to know about the Italian Method」(2021)、Consorzio Franciacorta 公式資料(Satèn の規定)、Michelin Guide「What is Franciacorta」(2025)。







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