ミレジマートとは、ぶどうが収穫された単一の年(ヴィンテージ)を指す言葉で、プロセッコの場合はその年に穫れたぶどうを85%以上使っていることを意味します。ラベルに「Millesimato 2024」とあれば、2024年の収穫を主体に造られた一本、ということです。イタリア語の millesimato は「年号入りの」という意味で、フランス語の millésime(ミレジム)と同じ語源です。
プロセッコは日本でもすっかりおなじみになりました。けれど、ラベルのこの言葉の意味や、プロセッコという名前そのものの背景は、意外と知られていません。今日はイタリアからこのワインを運んでいる立場として、ヴェネトの現場の目線で少しだけ深くご案内します。
よくある誤解:「ミレジマート=高級」ではありません
まず、ミレジマートは公式の等級(ランク)ではありません。多くのプロセッコは複数の年のワインをブレンドして、味わいを毎年一定に保ちます。それに対してミレジマートは、造り手が「この年は良かった」と判断した年のぶどうだけで仕上げた一本です。つまり高級という意味ではなく、良い年への自信と、造り手の手間のあらわれだと考えてください。
そしてもう一つ、現地ではあたりまえなのに日本ではあまり知られていない事実があります。「プロセッコ」はもともとブドウの名前ではなく、土地(産地)の名前です。ブドウ品種の正式名は「グレラ(Glera)」。2009年の制度改正で、プロセッコという呼び名を産地として守るために、品種名はグレラへと改められました。グレラのほかに、ヴェルディーゾやシャルドネ、ピノ系などを15%まで補助的に使うことも認められています。
プロセッコの歴史:ヴェネトの毎日の一杯
プロセッコの故郷は、イタリア北東部ヴェネト州の、コネリアーノとヴァルドッビアーデネ(Conegliano e Valdobbiadene)という丘陵地帯です。シャンパーニュのような「特別な日のお酒」というより、地元では昔から食卓に欠かせない毎日の一杯でした。
2009年の改正で、プロセッコは大きく二つに整理されます。広い平野部を含む9つの県でつくられる「プロセッコDOC」と、丘の上の銘醸地を守る「コネリアーノ・ヴァルドッビアーデネDOCG」です(DOC・DOCGはイタリアの原産地呼称、品質と産地のルールのことです)。多くのプロセッコは、大きなタンクのなかで二次発酵させて泡を生む「シャルマ法(マルティノッティ法)」で造られます。瓶のなかで時間をかけるシャンパーニュとは違い、ぶどうのフレッシュな果実味をそのまま閉じ込められるのが持ち味です。
| 項目 | 傾向 |
|---|---|
| ボディ | 軽め |
| 酸味 | さわやかで中程度 |
| 泡 | やわらかくきめ細かい |
| 香り | 青りんご、洋梨、白い花 |
| 飲み頃温度 | 6〜9℃(しっかり冷やして) |
産地で変わるスタイル、そして「コル・フォンド」
同じプロセッコでも、平野部のDOCはより軽快で親しみやすく、丘陵地のDOCG(コネリアーノ・ヴァルドッビアーデネ、アゾロ)は土地の起伏ぶんだけ味わいに芯が出ます。
そして、丘の上の人たちが何世代も飲んできた、日本ではほとんど見かけないスタイルがあります。「コル・フォンド(col fondo)」と呼ばれる、昔ながらのプロセッコです。瓶のなかで二次発酵させ、澱(おり、はたらき終えた酵母の沈殿)を抜かずに残すため、うっすら濁っていて、泡はおだやか、味わいはとても辛口。収穫の翌春に瓶詰めされる、農家の食中酒です。きらびやかな輸出用プロセッコとは別物の、素朴で滋味深い一杯で、ヴァルドッビアーデネの地元ではこれこそが「本物のプロセッコ」だと胸を張る人も少なくありません。
日本での楽しみ方:ヴェネトの「オンブラ」を食卓に
ヴェネトでは、プロセッコは特別な日のためのお酒ではありません。地元の人は、小さな一杯のワインを「オンブラ(ombra)」と呼びます。方言で「日陰」という意味です。その昔、ヴェネツィアのサン・マルコ広場で、鐘楼(しょうろう、高い鐘つき塔)の影に荷車を移しながらワインを冷たいまま売る商人がいて、「鐘楼の影で一杯」がそのまま小さなグラスの愛称になった、という言い伝えがあります。仕事の合間や夕方、「オンブラを一杯やろう」と声をかけ合い、チケッティ(小皿のおつまみ)をつまみながら何軒かはしごする。これは飲むためというより、人とつながるための時間です。
この感覚は、日本の食卓にもよくなじみます。プロセッコは「甘くてパーティー用」と思われがちですが、ブリュット(辛口)はきりっとしていて、むしろ食事に万能です。揚げ物の油を、やわらかな泡がすっと流してくれるので、天ぷらや唐揚げと相性抜群。出汁のきいた和食、お寿司や刺身、枝豆や生ハムにも軽やかに寄り添います。私自身、東京でワインをお出しするとき、最初の一杯にプロセッコを選ぶことがよくあります。冷えた泡で始めると、不思議と場がやわらぐからです。
家庭での一番のコツは、とにかくよく冷やすこと。ワインセラーは必要ありません。飲む数時間前から冷蔵庫で立てて冷やし、6〜9℃でどうぞ。アペリティーボ(食前酒)として、食卓の最初の乾杯にあてるのがおすすめです。
フェデリーコのおすすめ
最初の一杯によくお出しするのは、ヴェネトの造り手ボスコ・デル・メルロの「プロセッコ・ミレジマート・ブリュット」です。名前のとおり、これがまさにミレジマート(単一年のプロセッコ)。手に取った一本のラベルで、今日お話しした言葉をそのまま確かめていただけます。青りんごや洋梨の香りに、白い花のニュアンス。きりっと辛口で、食前から食事の最初までよく働いてくれます。
もう少し華やかにいきたい日は、プロセッコ・ロゼ・ミレジマートを。グレラにピノ・ノワールを少し重ねた淡いピンクで、こちらも単一年仕立て。売上の一部が乳がん予防の活動に寄付される、気持ちのよい一本です。
選び方・飲み頃・似ているスタイル
ラベルの甘辛表示は少しまぎらわしいので、ここだけ覚えてください。辛口から甘口へ、ブリュット → エクストラ・ドライ → ドライの順です。名前に反して「ドライ」が一番甘いので注意。食事に合わせるなら、まずはブリュットが扱いやすい一本です。
似たスタイルとしては、同じイタリアのフランチャコルタ(瓶内二次発酵で、よりリッチで複雑)、甘口で知られるアスティ、スペインのカヴァなどがあります。飲み比べると、プロセッコのフレッシュで親しみやすい個性がよく見えてきます。グレラというブドウ自体についてはプロセッコ(グレラ)のブドウ品種ガイドもどうぞ。
よくある質問(FAQ)
Q. ミレジマートは「高級」という意味ですか?
A. いいえ。公式の等級ではなく、単一の収穫年(85%以上)でつくられたことを示す表示です。造り手が良い年に自信を持って出す、というサインだと考えてください。
Q. プロセッコとシャンパンの違いは?
A. 製法(プロセッコは主にタンク、シャンパンは瓶内)、ブドウ(グレラ対シャルドネなど)、産地(ヴェネト対シャンパーニュ)が違います。プロセッコはフレッシュで親しみやすく、価格も手に取りやすいのが魅力です。
Q. ブリュットとエクストラ・ドライ、どちらが甘いですか?
A. エクストラ・ドライのほうが甘口です。これはよくある誤解で、一番辛口なのはブリュット。食事に合わせるならブリュットが万能です。
Q. 開けたら何日くらいもちますか?
A. スパークリング用の栓をして冷蔵庫で2〜3日が目安です。ただ、泡と香りがいきいきしているうちが一番おいしいので、お早めに。
ヴェネトの人たちのように、肩の力を抜いて、まずは冷えた一杯から。乾杯のきっかけは、それで十分です。

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