「甘くて飲みやすいワイン」と聞いて、少し物足りなさを感じる方もいるかもしれません。けれどモスカート・ダスティ(Moscato d'Asti)は、その印象だけで通り過ぎるにはもったいない一本です。アルコールはおよそ5.5%と軽やか、やさしい甘みとほんのりした泡。その親しみやすさの裏には、イタリア・ピエモンテの長い歴史と、計算されたていねいな造りがあります。この記事では、モスカート・ダスティの正体を、できるだけ分かりやすく、しかし深く掘り下げてご紹介します。
モスカート・ダスティとは
モスカート・ダスティは、イタリア北西部ピエモンテ州のアスティ周辺で造られる、微発泡(びはっぽう、シュワっと軽く泡立つ程度)の白ワインです。イタリアワインの最高格付けであるDOCG(原産地呼称統制保証。産地や造り方が法律で守られている証)に認められています。特徴は三つ。やさしい甘み、軽い泡、そして低いアルコール度数です。畑のあるランゲ・ロエロ・モンフェッラート地域は、ユネスコの世界遺産にも登録された銘醸地です。
ブドウは「モスカート・ビアンコ」
使われるのはモスカート・ビアンコ(白モスカート、英語ではマスカット)という品種。世界でもっとも古いブドウのひとつとされ、何千年も前から栽培されてきました。最大の個性は、ブドウそのものが持つ華やかな香りです。一般的なワイン用ブドウは発酵させて初めてワインらしい香りが生まれますが、モスカートは果実の段階からマスカットや白い花、ハチミツのような香りをまとっています。だからこそ、その香りを生かす造り方が選ばれます。
なぜ甘くて、低アルコールで、泡があるのか
秘密は発酵の「止め方」にあります。ワインは、酵母がブドウの糖をアルコールに変えることで生まれます。糖をすべて使い切ればアルコールの高い辛口に、途中で発酵を止めれば、糖が残って甘く、アルコールは低くなります。モスカート・ダスティは、タンクを冷やして発酵を途中で止める造り方(メトド・マルティノッティ、タンク内で発酵させる方式)を使い、糖と香りを残したまま仕上げます。発酵の途中で生まれた炭酸ガスの一部がワインに溶け込み、あの軽い泡になります。結果として、甘みと香りが豊かで、アルコール約5.5%という驚くほど軽い一杯になるのです。
アスティ・スプマンテとの違い
同じアスティ産でも、しっかり泡立つ「アスティ・スプマンテ」は別物です。スプマンテは圧力を高めて本格的な発泡に仕上げたスパークリングワインで、泡が強くアルコールもやや高め。一方モスカート・ダスティは泡がやわらかく、アルコールが低く、より繊細です。スーパーで見かける安価な「モスカート」とも違い、ダスティはDOCGの産地・品質基準に守られた、れっきとした地域ワインです。
味わいと香り
グラスに注ぐと、マスカット、白桃、オレンジの花、洋ナシ、そしてハチミツのような香りが広がります。口に含むと甘やかですが、フレッシュな酸がしっかりあるので、後味はすっきり。「甘すぎてくどい」という印象とは正反対で、軽やかに飲み進められます。よく冷やすほど、この爽やかさが際立ちます。
どう楽しむ:合わせ方と飲み方
食前酒として一杯目に開けるのもよし、フルーツタルトや焼き菓子、パンナコッタといったデザートと合わせるのも王道です。和の食卓なら、フルーツや、あんこを使った和菓子とも好相性。意外なところでは、スパイシーなエスニック料理の辛さをやさしく包んでくれます。アルコールが低いので、お酒が強くない方や、軽く乾杯したい休日の昼にもぴったり。最近の「少なめに、良いものを」という飲み方にもよく合います。飲み頃の温度は6〜8度。よく冷やして、開けたら数日のうちに、フレッシュなうちに楽しむのがおすすめです。
「安い甘口」という誤解
モスカート・ダスティは手頃な価格のものが多く、それゆえ「気軽だけど本格的ではない」と見られがちです。けれど、つくり手次第で品質は大きく変わります。たとえば私たちが扱うアレッサンドロ・リヴェットは、ピエモンテを代表する高級赤ワイン、バローロやバルバレスコを手がける本格派の造り手。その同じ畑と哲学から生まれるモスカート・ダスティは、軽やかでありながら、香りにも余韻にも品があります。気軽な一本にこそ、造り手の力量が表れます。
SWIRLのおすすめ:リヴェットのモスカート・ダスティ
ピエモンテ、ラ・モッラのアレッサンドロ・リヴェットが、ユネスコ世界遺産の丘で育てたモスカートから仕上げた一本。華やかな香り、やさしい甘み、軽い泡、そしてアルコール約5.5%。デザートにも、休日の昼の一杯にも。まずはよく冷やして、その香りから楽しんでみてください。
よく冷やして、軽やかに。難しく考えず、まずは一杯から。それがモスカート・ダスティのいちばんの楽しみ方です。

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