ぶどう品種の家系図とは、ワイン用ぶどうの品種同士が「親子」「きょうだい」「同じぶどうの別名」といった血縁でどうつながっているかを、DNA鑑定の結果をもとに一枚の図にしたものです。 1990年代からのDNA研究で、シャルドネの親が「格下」とされた農民のぶどうだったり、プーリアのプリミティーヴォがカリフォルニアのジンファンデルと同じぶどうだったりと、ワインの常識をひっくり返す発見が続いてきました。
私はイタリア出身で、東京でイタリアワインを輸入し、毎日のようにグラスに注いでいます。お客様から「この白が好きなら次は何?」と聞かれたとき、いちばん頼りになるのがこの家系図です。この記事では、フランスとイタリアの主要品種を家系ごとにたどり、それぞれの一族をSwirlのセラーのどのワインで実際に飲めるのかまで、まとめてご紹介します。
よくある誤解:名前が違えば別のぶどう?
いちばん多い誤解は「名前が違えば別の品種」「産地が近ければ親戚」という思い込みです。実際はその逆のケースがたくさんあります。
- 名前が違っても同じぶどう:プリミティーヴォ=ジンファンデル、ヴェルメンティーノ=ロール(南仏プロヴァンス)、ガルガーネガ(ソアーヴェ)=グレカニコ・ドラート(シチリア)。
- 色が違っても同じぶどう:ピノ・ネロ、ピノ・グリージョ、ピノ・ビアンコは、果皮の色が変わった突然変異で、DNAは同じです。
- 同じ産地でも他人:ピエモンテのネッビオーロとバルベーラは、隣り合う畑で育っても、DNA上の近い血縁は見つかっていません。
家系図には3種類の線があります。両親がそろって判明している「親子(トリオ)」、親子なのは確かだがどちらが親か決まっていない「親子関係」、そして名前だけが違う「同一品種(シノニム)」です。この記事でもこの区別を守って書いています。
家系図の見方:緑=いまSwirlのセラーで飲めるぶどう、白=話に登場する親戚。「×」は自然交配の両親、「=」は名前が違うだけの同じぶどうです。
フランス系の家系図:ピノとカベルネ・フランが二大祖先
フランスの主要品種の多くは、ブルゴーニュのピノと、ボルドーのカベルネ・フランという二つの祖先にたどり着きます。そこにアルプス側のサヴァニャンとシラーの系統が加わります。
1. ピノ一族:ブルゴーニュの「本家」
グエ・ブランは中世に「品質の劣るぶどう」として何度も栽培禁止令が出された、いわば農民のぶどうです。その農民と名門ピノのあいだに生まれたのが、世界でいちばん有名な白ぶどうシャルドネでした。ピノ・ノワール(イタリア名ピノ・ネロ)の果皮の色が抜けたのがピノ・グリ(ピノ・グリージョ)とピノ・ブラン(ピノ・ビアンコ)で、こちらは親子ではなく「同じぶどうの色違い」です。
Swirlでは、同じピノを「色違い」で飲み比べられます。ヴェネトのピノ・グリージョと、果皮の色をしっかり引き出したピノ・グリージョ・ロゼ、そして本家のペタルマ・ギャップ・ピノ・ノワール。さらにピノの子どもであるシャルドネを並べれば、一族の顔ぶれがそろいます。
ちなみにSwirlのプロセッコ・ミレジマート・ブリュットも、グレラにピノ・ネロを15%ブレンドしています。ピノ一族は泡の中にも顔を出しているのです。
2. カベルネ・フラン一族:ボルドーの父
つまりカベルネ・フランは、カベルネ・ソーヴィニヨンとメルローの両方の父親です。ボルドーの赤ワインは「カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、カベルネ・フランのブレンド」が定番ですが、家系図で見ると父と二人の子どもを一本に詰めた、家族のワインなのです。カベルネ・ソーヴィニヨンの母が白ぶどうのソーヴィニヨン・ブランだというのも、初めて聞くと驚かれます。
Swirlのセラーでは、この一族がボルドーとイタリアの両方にいます。右岸のシャトー・ロシェ・ガルダはメルローとカベルネ・フラン、つまり父と子のブレンド。シチリアのセッラマッロッコはカベルネ・ソーヴィニヨン85%にカベルネ・フラン15%と、こちらも親子の組み合わせです。そして母方のソーヴィニヨン・ブランは、ヴェネト東部のボスコ・デル・メルロが造るトゥラニオで味わえます。
ほかにも、グラーヴのキュヴェ・デュ・サントネールや、トスカーナ・マレンマでボルドー品種を育てるブレンド・ヌメロ・セッテが、同じ一族のワインです。
3. サヴァニャン(トラミネール)一族:アルプスの古い血筋
ここで家系図がつながります。ソーヴィニヨン・ブランはサヴァニャンの子どもと考えられているので、カベルネ・ソーヴィニヨンから見るとサヴァニャンは「おそらく祖父母」。ライチやバラの香りで知られるゲヴュルツトラミネールと、ボルドーの赤ワインが、遠い親戚なのです。Swirlではイタリア名トラミネール・アロマティコとして、北イタリアのイビスコをご用意しています。
4. シラー:アルプスを越えたイタリアの親戚
北ローヌの主役シラーの父は、アルデシュ地方の古い黒ぶどうデュレザ。母はサヴォワの白ぶどうモンドゥーズ・ブランシュとされてきました(最新のゲノム研究では、母との関係はもう少し複雑な可能性も指摘されています)。面白いのは、父デュレザがトレンティーノのテロルデゴのきょうだいだったこと。シラーにとってテロルデゴは「おじさん」にあたり、フランスの名品種がアルプスの向こうのイタリアと血でつながっていたのです。
その縁を感じながら飲みたいのが、北イタリア・ヴェネトで育てたシラー、シラー・セドゥツィオーネです。北ローヌほど濃くなく、黒胡椒のスパイスとやわらかな果実味で、日本の食卓にも合わせやすいシラーです。
イタリア系の家系図:南へ広がるサンジョヴェーゼ、海を渡るモスカート
イタリアには500を超える土着品種があり、2021年には数百のイタリア品種のDNAをまとめて調べた「イタリアぶどう品種の親子アトラス」が発表されました。その結果、トスカーナのサンジョヴェーゼや、地中海各地に広がったモスカートが、南イタリアの品種の親であることがはっきりしてきました。
5. サンジョヴェーゼ一族:トスカーナから南へ
イタリアで最も多く植えられている黒ぶどうサンジョヴェーゼ。実は両親はまだわかっていません。2007年に「チリエジオーロ×カラブレーゼ・ディ・モンテヌオーヴォ」という説が出ましたが、その後のDNA研究で否定され、むしろチリエジオーロのほうがサンジョヴェーゼの子どもだとわかりました。親は謎のまま、子どもはトスカーナからシチリアのエトナ山まで広がっている。これがサンジョヴェーゼの面白さです。
Swirlで扱うサンジョヴェーゼは、すべてトスカーナ南部マレンマのテレンツィ家のもの。チリエジオーロも古くから植えられてきた土地です。マレンマには「ブッテリ」と呼ばれる騎馬の牛飼いがいて、その伝統はエトルリア時代にさかのぼるとも言われます。1890年にバッファロー・ビルのワイルド・ウエスト・ショーがイタリアを巡業した際、ブッテリが野生馬の乗りこなしで勝負を挑み、勝ったという逸話が今も語り継がれています。そんな野性味のある土地が、引き締まった酸と果実味のサンジョヴェーゼを育てます。
もっと凝縮したサンジョヴェーゼなら、少量生産のプーロサングエも。同じぶどう、同じ造り手でも、畑と熟成で表情が変わるのがよくわかります。
6. モスカート一族とガルガーネガ:シチリアのグリッロは「混血の白」
シチリアを代表する白、グリッロはカタラットとジビッボの自然交配から生まれました。ジビッボの親はピエモンテのモスカート・ダスティでおなじみのモスカート・ビアンコ。そしてカタラットは、ヴェネトのソアーヴェに使われるガルガーネガと親子関係にあります。北のソアーヴェと南のシチリアが、グリッロの中で出会っているわけです。
この一族は、Swirlのセラーで三世代すべて飲めます。祖先側のモスカート・ダスティ、子のジビッボ、孫のグリッロ、そして「もう一つの家系」ガルガーネガのソアーヴェ。私がテイスティング会で一番盛り上がるのが、この並びです。
7. プリミティーヴォ=ジンファンデル=トリビドラグ
プリミティーヴォもトリビドラグも、語源はどちらも「早く熟す」。故郷はアドリア海の対岸クロアチアで、そこではトリビドラグとドブリチッチの交配から、クロアチアを代表する赤プラヴァッツ・マリも生まれています。同じ遺伝子でも、プーリアでは甘く熟した果実味と温かみ、カリフォルニアではジャミーでパワフルと、土地で表情が変わります。
この「同じぶどう、別の国」を一番手軽に体験できるのが、Swirlが日本初・独占輸入するドッピオ・パッソ・プリミティーヴォ。カリフォルニア側は、ジンファンデルをブレンドしたナパのボン・トン・レッドで比べられます。
8. ヴェルメンティーノ=ロール:国境をまたぐ同一品種
プロヴァンスでは「ロール」、リグーリアでは「ピガート」、ピエモンテでは「ファヴォリータ」。フランスとイタリアで呼び名が違うだけで、中身は同じぶどうです。海辺で育つことが多く、ほんのり塩気を感じるような爽やかさが特徴。Swirlではマレンマのバルビーノでお楽しみいただけます。
9. ピエモンテ:ネッビオーロは「親のわからない親」
バローロやバルバレスコのネッビオーロは、両親がわからないまま、ピエモンテの品種の「親」として家系図の上のほうに座っています。同じランゲの畑で育つバルベーラやドルチェットとは近い血縁が見つかっておらず、ドルチェットはモワッサンとドルチェット・ビアンコという別の家系の子どもです。ネッビオーロの入口には、リヴェット家のランゲ・ネッビオーロがおすすめです。
10. 家系図の空白:親がまだわからない品種たち
DNA研究が進んでも、両親が特定されていない品種はたくさんあります。シチリアのネロ・ダーヴォラとインツォリア、ピエモンテのアルネイスとナシェッタがその代表。家系図に空白があるのは、それだけ古く、土地に根づいた品種だという証でもあります。よくある混同が、ネロ・ダーヴォラの別名「カラブレーゼ」。サンジョヴェーゼの親候補として話題になったカンパーニアの「カラブレーゼ・ディ・モンテヌオーヴォ」とは別のぶどうです。
Swirlのセラーで家系図をたどる:一覧表
家系ごとに、いまSwirlでお届けできるワインをまとめました。商品ページから在庫と価格をご確認いただけます。
| 家系 | Swirlで飲めるぶどう | ワイン |
|---|---|---|
| ピノ一族 | ピノ・グリージョ、ピノ・ノワール、シャルドネ | ピノ・グリージョ/ピノ・グリージョ・ロゼ/ペタルマ・ギャップ・ピノ・ノワール/ナパ・ヴァレー・シャルドネ |
| カベルネ・フラン一族 | カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、ソーヴィニヨン・ブラン | シャトー・ロシェ・ガルダ/セッラマッロッコ/ソーヴィニヨン・ブラン・トゥラニオ |
| サヴァニャン一族 | ゲヴュルツトラミネール | トラミネール・アロマティコ・イビスコ |
| シラー | シラー | シラー・セドゥツィオーネ |
| サンジョヴェーゼ一族 | サンジョヴェーゼ | モレッリーノ・ディ・スカンサーノ/マードレキエーザ/プーロサングエ |
| モスカート・ガルガーネガ一族 | モスカート、ジビッボ、グリッロ、ガルガーネガ | モスカート・ダスティ/ドッピオ・パッソ・モスカート/クオイアーネ・ジビッボ/グリッロ・デル・バローネ/ファリナルド・ソアヴェ |
| トリビドラグ(同一品種) | プリミティーヴォ=ジンファンデル | ドッピオ・パッソ・プリミティーヴォ/ナパ・ヴァレー・ボン・トン・レッド |
| ヴェルメンティーノ(同一品種) | ヴェルメンティーノ=ロール | バルビーノ |
| ネッビオーロ一族 | ネッビオーロ | ランゲ・ネッビオーロ |
| 親が不明の品種 | ネロ・ダーヴォラ、インツォリア、ナシェッタ | バーリオ・ディ・セッラマッロッコ/インゾーリア/ランゲ・ナシェッタ |
日本での楽しみ方:家系図で飲み比べ
家系図の一番の使い道は、自宅での飲み比べです。2本か3本を並べるだけで、ワインの理解がぐっと深まります。私がよくおすすめする組み合わせはこの3つです。
| テーマ | 並べるワイン | 合わせたい料理 |
|---|---|---|
| シチリア三世代 | モスカート・ダスティ → クオイアーネ・ジビッボ → グリッロ・デル・バローネ | 天ぷら(塩で)、白身魚のカルパッチョ、食後に果物 |
| ボルドーの父と母 | ソーヴィニヨン・ブラン・トゥラニオ → セッラマッロッコ | 前菜に鶏ささみの梅しそ和え、メインに牛ステーキやすき焼き |
| 同じぶどう、別の国 | ドッピオ・パッソ・プリミティーヴォ ↔ ナパ・ヴァレー・ボン・トン・レッド | 焼肉のタレ、照り焼き、ハンバーグ |
飲み比べのコツは、軽いもの、香りの穏やかなものから順に注ぐこと。そして日本の家庭なら温度管理がいちばん大事です。白は冷蔵庫から出して5分ほど、赤はサンジョヴェーゼやプリミティーヴォなら夏場は冷蔵庫で20〜30分冷やして15〜18℃くらいにすると、酸と果実のバランスがきれいに見えます。セラーがなくても十分楽しめます。
選び方:好きな一本の「親戚」をたどる
家系図は、次の一本を外さないための地図です。好きな味から、こんなふうにたどってみてください。
- シャルドネが好き → きょうだいのガメイ、親のピノ・グリージョ
- カベルネ・ソーヴィニヨンが好き → 父のカベルネ・フランを含むボルドー右岸のブレンド
- モスカート・ダスティが好き → 子のジビッボ、孫のグリッロで辛口の世界へ
- プリミティーヴォが好き → 同じぶどうのジンファンデル
- サンジョヴェーゼが好き → 子どもにあたるエトナのネレッロ・マスカレーゼ
品種ごとの詳しい解説は、ジンファンデルとはなどのブドウ品種ガイドもあわせてどうぞ。
よくある質問
Q. プリミティーヴォとジンファンデルは本当に同じぶどうですか?
A. はい。DNA研究で、プリミティーヴォ、ジンファンデル、クロアチアのトリビドラグ(クルイェナク・カシュテランスキ)は同一の品種だと確認されています。味わいの違いは産地と造り方によるものです。
Q. カベルネ・ソーヴィニヨンの親は本当に白ぶどうですか?
A. はい。黒ぶどうのカベルネ・フランと、白ぶどうのソーヴィニヨン・ブランの自然交配で生まれたことが、1997年のDNA研究で示されました。
Q. ピノ・グリージョとピノ・ノワールは親子ですか?
A. いいえ、親子ではなく同じぶどうです。ピノ・ノワールの果皮の色が変わった突然変異がピノ・グリージョ(ピノ・グリ)で、DNAは同じです。
Q. サンジョヴェーゼの親はわかっていますか?
A. まだわかっていません。2007年に発表された説は、その後のDNA研究で否定されました。一方で、ネレッロ・マスカレーゼやガリオッポなど、南イタリアの品種の親であることは確認されています。
Q. よくある誤解は?
A. 名前が違えば別のぶどう、産地が近ければ親戚、という思い込みです。ヴェルメンティーノとロールのように国をまたいで同じぶどうもあれば、ネッビオーロとバルベーラのように同じ畑で育っても他人どうしの品種もあります。
家系図を片手に、ぜひ「親戚どうし」の一本を並べてみてください。いつものワインが、少し違って見えてくるはずです。
参考:Bowers ほか『Science』(1999)、Bowers & Meredith『Nature Genetics』(1997)、Boursiquot ほか(2009)、Vouillamoz & Grando『Heredity』(2006)、Crespan ほか『VITIS』(2008)、D'Onofrio ほか『Frontiers in Plant Science』(2021)、Raimondi ほか『Scientific Reports』(2020)。





















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